スリランカのゴールGalle港(北緯06度01分、東経80度13分)は2006年10月に反政府軍ゲリラ「タミールの虎」による爆発物を仕掛けた漁船の突入攻撃を受け、港内にあるスリランカNavy施設の一部が破壊され3人の兵士が死亡、30人ほどの兵士と民間人が負傷した事件がありました。
それ以降、ゴール港の警戒が厳重となり、地元の漁船を含むすべて船は入港時にスリランカNavyによる厳しい検査があります。また、夜中の港への出入りは禁止されおり、このゴール港周辺では写真撮影は厳禁となっています。 ぽれーるは1月11日の夕刻にゴール港の沖合に到着しましたが、当日が日曜日で暗くなり始めていたので一晩沖合でヒーブツーし明朝ゴール港に入ることにしました。
12日8時頃、Navyへ入港する旨の連絡を無線で行い、湾の中に入って指示された海面でアンカーを下ろしNavyの船内検査を待ちました。既に5隻のヨットが同じようにアンカーを下ろしてNavyの検査を受けており、検査が終了したヨットから次々と港へ入って行きました。
ぽれーるの順番がきて軽機関銃と小銃で武装し厳しい顔つきの6名の兵士を乗せたNavyのパワーボートが横付けされ、隊長格の若い少佐を先頭に4名がぽれーるに乗込んできました。少佐はかなり横柄な感じで船名と国籍を尋ね彼の持っているリストと照合していましたが、どうも「Polaire」という名前が見つからないようで船名を再度尋ねてきました。
私が彼の持っていたリストを見せてもらうとそこには「Blue Water Ocean Rally Yacht Race」参加艇とあり、私がぽれーるはラリー参加艇ではないことを告げると、今度はゴール港のエージェントに対し事前に入港の許可を取っているかと尋ねられました。私が初めてスリランカを訪れるので事情も分らないためエージェントには連絡はしていないことを告げると、彼は「ゴール港への入港は許可できない! 直ぐに湾内から出ろ」と言われてしまいました。
仕方なく私は彼にスリランカの首都に近いコロンボ港なら入港は可能かと尋ねましたがコロンボは自分の管轄ではないので分らないとしか言ってくれませんでした。少佐がパワーボートに乗移った時に、私は少佐に「私はあなたと同じように日本ではJapan Navyで勤務し4年前にCommanderでリタイヤした。スリランカと日本は親しい国なので、一度訪れたいと思っていたが残念だ。」(権威に対して権威で立ち向うのは好むところではありませんでしたが、相手がNavyだったのでつい言ってしまいました。)と言いました。
すると少佐は再びぽれーるにもどり、先ず姿勢を正して敬礼をしてくれ、「自分には港の停泊スペースを確保する権限はない。既にラリー参加のヨットが30隻ほど港内に停泊しており、これからも更に多くの参加艇がタイからゴール港に到着するため、ラリーに参加していないヨットの停泊スペースがないが、これから港に戻りエージェントと掛合ってくるので、しばらく待ってもらいたい。」と言って港へ帰って行きました。
30分ほどして少佐が戻って来て停泊スペースが確保できたので入港が許可されました。隊長の少佐は名前をカヒクルップKahi Kuruppuといい年齢は30歳、後日、ぽれーるを訪れ、ウイスキー、ジンとスリランカの国旗をプレゼントしてくれました。スリランカの人はよくお強請りをしますが、後にも先にもスリランカ人からプレゼントされたのはクルップ少佐一人でした。
話を聞くと彼には奥さんと小さな女の子がおり、このような外国の漁船やヨットの臨検任務は自分としてはやりたくはないが、彼が英語、フランス語、マレー語を話せるため、上から与えられた任務だそうです。また、何か困ったことがあったら連絡してくれるように言い、携帯電話番号、彼の住所を教えてくれました。
港の入口は監視塔とゲリラの船、フロックマン等の侵入を防ぐため、海底ネットのブイが二重に張られており、わずかに開いているブイの間を通り港内に入りました。港の桟橋には3000トンクラスの英国やロシアの調査船、また、パナマ船籍の外洋タグシップ、マレーシアの漁船、地元のタグボート、作業船等が係留されており、これらの船が港を出入りする時は海底ネットブイを一時的にNavyの作業船を使って移動していました。
夜間は完全にこの海底ネットブイで港の入口が封鎖されていました。 ぽれーるは大型船用のバースにバウアンカーを下ろしながらバックしスターンをロープで止める艫付をしました。係留が終ると早々エージェントの若い担当者が乗込んで来て入国手続の書類を作り始めました。私が自分で入国手続が出来るのでエージェントの(有料)手助けはいらないと言うと彼はスリランカではエージェントを通さないと入国は認められないということでした。
入国関係の書類が出来上って1ヶ月のエージェント費、停泊料、カスタムス、イミグレーション費用を含めUS200ドルも取られました。エージェントが帰るとカスタムス(税関)担当官3人がぽれーるに来てエージェントが作成した書類を見ながらアルコール類とタバコを見せるように指示されたため、ココスで買ったウイスキーを2本出すと「サンキュー」と言って持ってきたアタッシュケースに入れてしまい、カスタムスの印鑑とサインをくれました。
カスタムスが引上げると暫くしてイミグレーション(出入国管理)担当官2人が来て同じようにアルコール類を出すようにと言い、既にカスタムス担当官が2本持って帰ったと言うと「しまった!カスタムスの連中に先を越された。(話内容はシンハラ語で分りませんでしたが彼らの顔つきで想像できました。)」と互いに話しながら「仕方がない、今回はビールで我慢するか。」と勝手に決めビール半ダースを奪うようにしてアタッシュケースにしまい、カスタムスと同じように何も仕事らしいこともせず帰って行きました。
これで入国手続は終ったと思っていると今度は港の管理をしているハーバーセキュリティーが来て港の停泊許可とゲートパスを発行してくれましたが、やはりビールを取られてしまいました。こんなにあからさまに物を賄賂的に取る国は今までクルーズで訪れた国では初めてでした。もちろん、ぽれーるだけではなくすべてのゴール港を訪れた海外のヨットはその被害に遭っていました。